AI時代の「人づくり」にこそ道徳が必要
- 日本道経会 理事
- 株式会社丸信 代表取締役
先日、ソフトバンクグループの孫正義氏による「SoftBank World 2024」での講演をYouTubeで拝見し、その衝撃的な未来予測に心躍る思いが致しました。あと2〜3年で人間を超えるAGI(人工汎用知能)が、そして10年以内にはその1万倍の知能を持つASI(人工超知能)が登場するというのです。
あらゆる分野で博士課程のトップクラスだそうですから単なる業務効率化のツールに留まらず、ASIは個人の健康管理から日常業務、高度な経営判断までをサポートする「パーソナルエージェント」となり、我々の社会や生活を根底から変革する可能性を秘めていると孫氏は語っておられます。
このような技術の指数関数的な進化を前にしたとき、我々経営者は何を考え、どう行動すべきなのでしょうか。目の前の効率化や生産性向上はもちろん重要です。ASIに正しい「問い」を立て、そこから導かれる問題の解決策の活用も重要となるでしょう。
しかし、私が最も深く共感したのは、孫氏が講演の最後に強調した「知性(Wisdom)」という言葉です。それは単なる能力や知識としての「知能(Intelligence)」ではなく、「思いやり、慈愛、調和、優しさ」といった、人間が本来持つべき徳性を含んだ概念です。これらを内包したAIを創るべきだというのが孫氏の主張です。
この孫氏の主張する「知性」こそ、我々が共に学び、経営の根幹に据えている道経一体経営思想そのものだと思ったのです。
ASIがあらゆる情報を処理し、最適な答えを導き出す時代が来たとしても、ASIが設計、創造される過程で道徳的思想を学習させるべきで、そのAIに何を問い、その答えをどのように社会のために活かすのかを最終的に判断するのは、我々人間です。
今現在でもAIに特定のソース(情報源)を学習させることは容易ですので、これからは各社毎、各人毎の特徴のあるAI(エージェント)をだれでも構築できるようになるはずです。まずは我々経営者がこれまで以上にモラロジーを学び、実践し、品性を高め、そして道経一体思想を深く理解したAIを構築し、そのAIを活用して社員さん一人ひとりが品性を高められるようにすることが、AI時代の経営者の最も重要な責務の一つになる可能性を感じた次第です。
AIやデジタルツールは、正しく学習させ、運用すれば「道経一体経営」「三方よし」を学び実践する為の強力なツールとなりえます。さらに将来、パーソナルエージェントが個々の社員の能力開発を道徳的にサポートし、社員を正しく導いてくれるアシスタントになる可能性もあるでしょう。
経営者も道経一体経営を真に理解したAIを右腕、左腕として活用すれば様々な意思決定の場面で道徳的間違いを犯すリスクを減らせるのではないでしょうか。AIを「人」の代替としてではなく、「人」が持つべき「道徳性」や「思いやり」を最大限に発揮させるための伴走者や教育ツールとして活用していく。こんな近未来の「道経一体経営」像が浮かんできました。
孫氏の強烈なプレゼンにあてられて、やや空想が過ぎたかも知れません。急激な変化は、時として不安を伴います。しかし、その変化を恐れるのではなく、日本道経会の会員として確固たる信念を持って自ら主体的にこのテクノロジーを活用していくべきだと思うのです。
これからも弊社は「人づくり」を目的とし、社員一人ひとりが「道経一体」と「三方よし」の精神を体現できるよう、まずは自らが学び、社員教育の機会を創り、社会に有為な人材を輩出していきたい。そして、道徳にAIという最先端の知性を融合させながら、人づくりを通してお客様と地域社会に真に貢献できる企業を目指して参りたいと思います。