父との経営
- 東京支部会員
- 株式会社JCF
① 創業と現在
株式会社ジェイシーエフは、1987年に父が小さなガレージで創業しました。
社名は「Japan Child Fashion」の略で、子供服の縫製工場としてスタートしました。
現在では社員50名、縫製アイテムも多岐にわたり、裁断・縫製・検品・出荷までを一貫して行う工場へと成長しました。創業から20年以上、製造のみを続けていましたが、2015年より企画販売を開始。これは、父の長年の夢でもあり、その夢を私が引き継ぐ形となりました。
② 父(会長)との関係
私は、会社に入るまで父と深く会話をすることはありませんでした。幼い頃の父は、寝ている間に帰り、寝ている間に会社へ行くという生活。しかし、休みの日にはキャッチボールやスキーに連れて行ってくれる優しい父でした。
ところが、思春期になると、私は親の言葉に耳を貸さなくなり、それは大人になってからも続いていました。父との距離は、社会人になってからも縮まることなく、私は自分の実力を過信し、周囲の意見を聞かなくなっていました。その結果、会社は倒産の危機に陥ることになりました。今からお話しするのは、私がその状況に至るまでの経緯と、そこから学んだことです。
③ アパレル企画販売の挑戦
2015年、私は「ジェイジョリー」というアパレルの企画販売会社を立ち上げました。きっかけは、ジェイシーエフが長年縫製を請け負っていたガーリー系ブランドの衰退です。2003年には年間売上10億円以上あった人気ブランドでしたが、2013年には1億円まで減少し、最終的に倒産。その後、M&Aによりブランドは存続しましたが、どの企画会社も成功させられず、たらい回しの状態になっていました。
このブランドをどうするか。工場としては大きなリスクがありましたが、私は「チャンスだ!」と思いました。どこでやってもうまくいかないブランド。ならば、私たちが運営すれば成功できるのではないかと考えたのです。
「企画販売をやりたい」というのは父の夢でもありました。私は、経営計画をまとめ、父に直談判しました。「やらせてほしい」と頼むと、父は反対することなく、私にチャンスを与えてくれました。そして、ライセンス元の会社に直接お願いし、ブランド運営を引き継ぐことになりました。
④ 予想以上の成功と大きな過信
私は新たな販路を開拓することに注力しました。国内市場の売上が低迷していたため、中国市場を狙うことを決意。ブランドの特徴は1サイズ展開で、日本人と体型の近いアジア圏には適していると考えました。父の知人の紹介で上海の方と繋がり、すぐに渡航。上海の活気に驚きながらも、私は新規開拓に奔走し、販路を広げました。
結果は、大成功。イベントには数百人の行列ができ、旧正月には5分で1億7千万円の売上を記録しました。この急成長に、私は「このまま突き進めば大丈夫だ」と過信してしまいました。私は売上だけを追い求め、利益やキャッシュフローを見ていませんでした。
・社員旅行を企画し、父に猛反対されるも強行
・事務所を増やし、新ブランドを次々に立ち上げる
・父の忠告に耳を貸さず、突き進む
しかし、この時すでに、会社の土台は崩れ始めていたのです。
⑤ 経営危機と父の支え
最も大事なお客様や社員のことが見えなくなっていた私は、痛い失敗を経験しました。
・社員の不正が発覚し、ブランドの信用が低下
・中国市場は競争が激化し、売上が10分の1に激減
・さらに、コロナ禍が直撃し、海外販路が完全にストップ
売上は壊滅的となり、私は役員報酬をゼロにしてありとあらゆる経費を削減しました。それでも会社の存続は危機的状況でした。父に相談すると、「社員の給料を下げなさい」と言われました。私はどうしてもそれだけは避けたかったのですが、結局、社員8名のうち4名が退職することに…。
その時、私は初めて自分の誤りに気づきました。売上を伸ばすことばかりに目を向け、大切なことを見失っていたのです。
⑥ 立ち直りとこれから
そんなときに一本の電話が鳴りました。それは落合英隆先生でした。言葉を詰まらせると落合先生はすぐ来なさいと言ってくださいました。翌日落合先生のオフィスに伺うと、私の顔を見た先生がまず食べなさいとお弁当やお菓子などをたくさん出してくださいました。無理やり口に運んでいると...落合先生に父がわたしのことを心配で話していることを聞きました。父は言いたいことをおそらくぐっと堪えて、支えてくれていたのだなとそこで初めて気付きました。
その後、私は一から販売戦略を見直しました。
・お客様視点の商品企画に切り替え
・セールをやめ、受注生産に切り替える
・生産をジェイシーエフ一本に絞る
同時に、私は父としっかり向き合うことを決めました。どんな小さなことでも報告・相談・連絡を徹底し、父のアドバイスを受けながら経営を再建。そして、今年、私はジェイシーエフの代表取締役社長に就任し、父は会長となりました。これからは、父と共に、そして社員と共に、次の世代へものづくりをつなげていくことを目標にしています。
⑦ モラロジーと私
私にとって、モラロジーとは「家族と社員への感謝」です。多くの失敗を経験しながらも、支えてくれた父、家族、社員がいたからこそ、今の私があります。これからも、周りの人への感謝を忘れず、ものづくりを通して恩返しをしていきたいと思います。