一般社団法人日本道経会

ファミリービジネスと事業承継

風澤 俊一
  • フーサワ商事株式会社 代表取締役
  • 日本道経会千葉支部 代表幹事

日本道経会の皆さま、こんにちは。千葉県柏市でフーサワ商事株式会社(不動産業)を経営しております風澤俊一と申します。

事業承継は、オーナー企業にとって避けて通れない課題です。「どのようにバトンを渡すべきか」「次世代が無理なく家業を受け継ぐにはどうすればよいか」と悩む経営者も多いことでしょう。私自身5代目として家業を継ぎましたが、振り返ると「事業を継ぐ」というよりは「家の哲学を受け継ぐ」事業承継だったと感じております。本稿では、僭越ながら風澤家の事業承継についてご紹介させていただきます。

風澤家商売の歴史

風澤家は1912年に千葉県柏市でタバコ販売業として創業しました。以来、時代の流れに応じて洋品店や飲食業、不動産業など業態を変えながら現在まで続いてきております。1970年代前半には柏駅周辺にそごうや高島屋、イトーヨーカドーなどの大型店が相次いで開店しました。その後の柏市の発展を見据え、1972年に設立したのがフーサワ商事株式会社です。不動産事業を展開し、まちと共に発展することが弊社の存在意義です。このように時代の変化に適応しながら事業を続けてきたのが風澤家の商売の特徴です。

幼少期から自然と芽生えた「承継者」としての意識

私は「家業を継ごう」と強く決意したわけではなく、自然な流れでその道を歩んできました。幼い頃から祖父(故風澤芳林)が毎年グループ会社の従業員を一同に集めて行うバス旅行に参加していました。そこで「風澤家は多くの人に支えられている」「家業が多くの人の生活を支えている」と実感するようになりました。

また、父(風澤俊夫)が所属する商工会議所青年部のクリスマス例会などに参加し、経営者の子どもたちと触れ合う機会も多くありました。こうした環境の中で「いつかは自分もこの家業に関わるのだろう」とごく自然に感じるようになりました。私自身は「家業を継ごう」と決意したわけではなく、自然な流れでその道を歩んできました。

父から学んだ「失敗してもいいから、やってみる!」という姿勢

私の父は、大学卒業後、倉敷での3年間の修行を経て家業に戻りました。20代半ばの父は様々な思いをもって帰郷したはずです。しかし、帰郷からわずか10日後、祖父から銀行印と会社の実印を手渡され「あとはよろしく!」と言われたそうです。このような経験もあり、父は「子どもには早く経営を任せるべきだ」と考えるようになりました。そして、私にも「失敗してもいいから、やってみろ!」というスタンスで事業を託してくれました。この考え方があったおかげで、私は若干32歳でしたがプレッシャーを感じることなく試行錯誤しながら経営に取り組むことができました。父が私に早く会社を譲ってくれたことで経営の決断を自分ごととして若いうちに経験できたことに今でも感謝しています。もし十分な準備が整うまで時間をかけていたら、現在のように主体的に考えることはできなかったかもしれません。

風澤家における「兄弟経営」とは?

風澤家の事業承継には「兄弟経営の分社化」という大きな特徴があります。父は5人兄弟の長男(双子)でしたが、兄弟で同じ会社を経営し「社員は誰の指示に従えばいいのか」という問題が発生しました。まさに「船頭多くして船山に登る」です。そこで男兄弟3人がそれぞれ異なる会社を設立し、兄弟ごとに独立した経営を行う形を選びました。この分社化の背景には、父がモラロジーで学んだ「兄弟は仲が良くてもなるべく分けろ」という教えがありました。結果として、兄弟間の軋轢を避けつつそれぞれが経営者として独自の判断を下せる環境が生まれました。

私も4人兄弟ですが、弟(風澤俊之)は飲食業を営んでおり、経営を完全に分離しています。経営面では各自が独立し意思決定の自由を持つ一方で、地域貢献活動やモラロジーなどでは協力する。この適度な距離感が、お互いの強みを活かしつつ健全な関係を保つ秘訣だと考えています。

「事業を継ぐ」のではなく「哲学を継ぐ」

事業を分社化しそれぞれの会社は独立経営を行っていますが、すべての会社が同じ社是・社訓を掲げています。私が代表を務めるフーサワ商事株式会社も弟の会社も叔父たちの会社も社是・社訓は同じです。これは、創業時から受け継がれてきた理念が今も全社共通の価値観となっている証拠です。父や叔父たち、私と弟、それぞれが異なる事業を運営しているにもかかわらず基本的な考え方は一貫しており、経営の根底に流れています。

私には息子が1人おりますが、もし仮に子どもが大谷翔平選手のようにスポーツ選手として才能を発揮したとしたら、事業を継がせるべきでしょうか?答えは「NO」です。大切なのは、事業を無理に押し付けるのではなく、「家の哲学」を伝えること。経営の形は変わるかもしれませんが「風澤家の哲学」を次世代に受け継ぎたいと考えております。

企業は時代とともに変化し、経営の形態や事業の内容も変わっていきます。しかし、家族として大切にしてきた価値観や理念は、次世代に受け継ぐべきものだと考えます。事業承継の本質は「会社を経営する」ことではなく、「家の哲学を次世代に伝えること」なのではないでしょうか。