一般社団法人日本道経会

「守成の経営」 第2ステップ

木下 恭輔
  • 日本道経会福岡支部会員
  • 株式会社エル三和 代表取締役

弊社は九州圏内において、スーパーマーケットの精肉部門をテナントとしてお預かりし、食肉加工販売の事業を展開している会社です。創業は1985年、会社設立は1989年8月1日・・・ここまでは約7年前の2017年2月に日本道経会通信に寄稿した際の書き出しと全く同じ文章です。

当時私は40歳で先代の父親から事業を承継し、2年半ぐらいの時期でした。ですから計算すると今年は代表取締役に就任して、ちょうど10年の節目の年となります。

社長になりあっという間の10年間、以前執筆してから7年の月日が経ちました。また年齢もちょうど50歳の節目ということで、今回この執筆にあたり、改めて社長になってからの10年間を振り返り、そしてこれから未来に向けての10年間を深く考える機会をいただき、非常にありがたく思っております。

40代の10年間は会社もプライベートも我ながら激動の中、良く持ちこたえてきたなという率直な感想です。当時弊社の事業承継も決して順風満帆というわけではありませんでした。様々なコスト削減を実行し、メインバンクさんと事業計画書を作成しながら、会社経営を進めていく状況でした。

1年目、2年目と、年を追うごとに少しずつ経常利益が出始めました。そんな矢先、私が社長になって3年目に父が他界しました。

半年前から癌の治療をスタートしていたので、いつかはそういう日が来ると頭の中では理解していましたが、まさかそんなに早いとは思ってもみませんでした。(ちなみに父が亡くなったのは前回寄稿した後です。)

しかし、30代から互敬塾に参加するようになり、40歳以降は福岡支部の運営に携わるようになり、支部長も拝命した中で、道経一体の学びを少しずつ自分ごととして進めていたお陰で、創業者の父が亡くなるという大きいインパクトがあったものの、会社も私自身もダメージを最小限に抑えることができ、今思えば道経一体という学びをかじる程度だったと思いますが互敬塾の仲間と行なっていたことは本当に精神的にも助かったと思っています。そして、このような経験を経た中でモラロジー、道経一体経営思想における私の役割も明確になり、生涯学習講師、MBIになるべく勉強もさせていただきました。その役割とは私が救われた分、少しでもこの学びを皆さんにお伝えするということです。

会社の経営もこの10年間赤字にもならず、経常利益も毎年増益とまでいきませんがある一定の額はしっかりと維持できており、コロナという前代未聞の期間もしっかりと乗り越えることができました。これも品性資本の「もちこたえる力」を僅かながらでも発揮できたと思っています。またその間、既存事業だけでは無く、お肉惣菜専門店やEC通販といった新規事業もスタートさせております。

「人づくり」においても、先代の余徳とは思っていますが、古参の幹部社員も私について来ていただき、大変ありがたく感じております。ある意味、道経一体経営における「守成」というものをなんとかやってこれたと思っていますが、コロナ後における世の中の社会的、経済的激しい変化の中、今年度は当社も今までに無いアゲンストの状況となって来ております。企業の栄枯盛衰も10年ごとと聞いたりしますが、まさにその通りです。

弊社のメイン事業である食肉加工販売は、食品の中でも生鮮食品3品(青果、鮮魚、精肉)と言われ、精肉の加工も技術職的な要素が強く、いわゆる職人的な技術者を要して、商品づくりを行います。

常に鮮度と加工ロス、廃棄ロスとの戦いです。ですから完全な機械化で商品製造を行うことが難しく、どうしても「労働集約型」のビジネス、要するに人の力を持って、商品製造も商品販売も行なっていくこととなります。

ここ数年来の働くことに対する価値観の変化、有給休暇の消化、労働時間超過、休日出勤、最低賃金の上昇、転職市場活性化、慢性的な労働力不足など、数々の人に関わる課題が我々の「労働集約型ビジネス」の継続を難しくさせています。早い段階で新たなビジネスモデルを作り出して行かなければなりません。だからと言って「人」を要しないビジネスモデルを作っていくということでは無く、より一層「人」に特化した、「人」の質を上げていく、仕組みとビジネスモデルを作り上げていかなければなりません。これは品性資本における「つくる力」であり、また従業員と私が「つながる力」を思う存分に発揮していく事だと思っています。

これからの10年間で、企業の社会的責任や、地域における役割などをより明確に打ち出した中で、従業員の皆さんが、存在意義や存在価値をしっかりと感じられるような会社、お店にシフトしていく予定です。

また従業員と「つながる」においても、トップの私が頭でっかちにならず、自分の気持ちや、考えていることを素直に直接的に伝える状況や機会をより多く作っていきたいと考えています。

「あなたがいてくれるから、安心して仕事を任せられる。」

「あなたがいてくれるから、お客様が喜んでくれる。」

「あなたがいてくれるから、会社が、お店がしっかり経営できている。」

「あなたには、可能な限り永く会社にいて欲しい。」

このような事を改まって伝えると従業員は驚くかもしれませんが、これからの10年をスタートするにあたり、ぜひ直接お伝えしていきたいと思います。

前述したように、我々のビジネスにおける環境下はアゲンストではありますが、この10年「道経一体経営」を自分の軸として学んできたお陰で変に狼狽えたり、アタフタするような感覚は不思議と一切ありません。今までの10年間を第1ステップとするならば、心機一転、心新たに道経一体の学びを道経会の皆様とより深めながら「守成の経営の第2ステップ」として、これからの10年邁進していく所存です。