ひとづくり
- 日本道経会 理事
- ジャトー株式会社 代表取締役社長
私たちが目指している「道経一体経営」では「ひとづくり」を経営の目的と位置付けています。
社員一人ひとりの成長と、物心両面の幸福を追求することは、企業の最も重要な使命であり、人件費は単なるコストではなく、私たちの経営目標そのものだと捉えています。
私が弊社に入社した日、入社式で創業者である祖父から贈られた言葉は「潰しのきく人間になれ」でした。
この言葉には、どんな時代でもどこに行っても社会に通用する力を身につけ、自立して生きていける人材になってほしいという祖父の願いが込められていたのだと思います。
祖父は高知県に生まれ、学校を出た後、土佐電気(現在の四国電力)に勤めたのち、電気技術者を目指し単身上京、現在の東京電機大学に通い、電気技術者の知識を身に付け、いざ就職しようとも世は世界恐慌の真っただ中、電気技術者として就職したくても工場はどこも人手を減らしこそすれ増やしている所は有りません。電気技術者の需要がこの数年間で好転しそうな気配もありません。となると電気技術者に固執していたのでは食べていけない。これは根本的に進む方向を変えなければいけないのではないか、自分にできることは何でもしていかないといけないと決心しました
たまたま知人の紹介で京都の三菱電機の代理店で営業をやらないかという話があり、技術者から営業に転向し、その会社で13年間学んだ経験や仕事を通じて知り合った人々とのご縁がもととなり現在のジャトーの設立に至っています。まさに縁は異なものです。その時に苦労した経験が「潰しのきく人間になれ」という言葉につながっているのではないかと思います。
今でも私は、入社式でこの言葉を引用しています。近年では転職市場の拡大もあり「都合のいい解釈」をされることもあるかもしれません。しかし、企業も永続する保証はありません。だからこそ「社会で通用する人を育て、送り出すこと」こそが、今も昔も変わらぬ企業の大切な役割であると考えています。
私はと言うと段階ジュニア世代のはしりとして生まれ、大学まで不自由なく行かせてもらい、社会に出るころにはバブルが弾け、需要を供給が上回り、のちに就職氷河期と呼ばれた世代にあたります。
私が入社したころの弊社は、建設業を主体に事業を展開し、競合他社との競争にもまれ、その結果、薄利多売となり巨額の売上げがなければ収益が上がらない状況であったため、会社全体が非常に忙しく、またそうでなければ会社を維持できない様な状態になっていました。
この時の事は後に父が自伝でこのように記しています。
「平成4年の売上ピークは126億円、社員も300人になっていました。そうなると、今度は売上をキープするために、人員を増やさなければならなかったり、得意先も増やさないといけなかったりしました。急激にそのような措置を取ったため、不渡りや人事面の不具合など、さまざまな問題が出るようになりました」
ちょうどその頃から箱物行政への世間からの批判が高まり、結果、予算が削減されたりし建設市場でも供給が需要を上回る状況に陥り、競争が激しくなり当社でも安値や赤字受注などが散発されるようになりました。
時を同じくして国税局からの指摘をマスコミに取り上げられたり、談合の疑惑をかけられたりしたこともあり、売上もどんどん落ちて平成14年にはとうとうリストラに踏み切らざるを得なくなりました。
その頃の父は「リストラはモラロジーでは絶対にしてはいけないこと」と理解していたため、思い悩んだ結果、モラロジー研究所(現:モラロジー道徳教育財団)へ相談に行き、「義務先行が足りなかった」事と「有限の損、無限の損」、「会社を残すために必要ならば仕方ありません」と諭されたと当時の事を記しています。
その結果、自然減や採用を休止したこともあり社員数も180名程となり、その頃から電設、建設業特化型から直ユーザー、市場特化型にかえて、現在は社員数220名程、売上は70億程で収益があげられるまで付加価値が高い事業展開になってまいりました。
当時と比べれば、今では世間も様変わりしました。現在は人手不足が蔓延し、需要が供給を上回り、どちらかと言うと仕事を選んで得意分野に特化して深掘りが出来るようになりました。
以前には爪に火をともすような昇給、厳しい時には賞与は一律で支給する事もありましたが、外部からの指導もあり、着手できなかった財務体質の強化にもメスを入れる事が出来たおかげで以前であれば最大のコストが人件費だと考えていたものが、ようやく道経一体経営がめざす人件費は、それ自身が目標となる考えに当社も少しずつ近づけているように感じます。
厳しい時代を担ってきた父は社員の努力に報いる事が出来ず苦しい思いをしてきたと思います。そんな父の想いに応えようと社員の皆様も奮闘努力してくれた結果なのかもしれません。
父からはジャトーをオーナー企業として残していきたいと言われています。オーナー家としてこの会社を守っていく立場で考えたなら、やみくもに規模の拡大に走る必要はないのでしょう。オーナー家の一員としてこの会社が培ってきた朗らかな社風を次の世代に引き継いでいけたらと考えている、今日この頃です。