一般社団法人日本道経会

日本道経会入会の功績

伊藤 誠一
  • 名古屋樹脂工業株式会社 代表取締役
  • 愛知支部 副代表幹事

弊社は、プラスチック板の熱成形加工という分野で、産業資材や店舗外装品を受注生産するメーカーです。小生の亡父が創業し、来年、創業70年を迎えます。小生の社長就任が、2003年ですので、既に23年も経過しました。今思えば、就任当時の事業継承は心もとなく、父からの目に見えた指導もなく、古参役員との確執、社内における信任不足、経営ビジョンの指針もないままの門出でした。そして就任5年目に父が他界、その直後のリーマンショック、更にその3年後に工場火災(生産現場の3分の1を焼失)に遭遇し、財務的にも半ば銀行管理下におかれるという、奈落の底に喘いだ社長就任10年目でした。そんな中でも社員、顧客、仕入先が離反せず、支援してくれたおかげで復活できました。その時初めて、社徳を積み上げてきた父の教えに思い至りました。

日本道経会入会のきっかけは、前愛知支部代表幹事の故鈴木健吾様の勧めでした。折しもコロナ禍真最中の2019年のことです。例会で唱和する誓いの言葉は、品性と社徳の向上、人材育成,三方よしの実現とあり、理想はそうではあるが、現実のビジネスにおいては、日々収益を上げる為の様々な業務に翻弄される毎日を思うと、立派なお題目に過ぎないとの印象でした。当時、リーマンショックや工場火災という経営危機を経て、ようやく企業存続の目途がついた頃で、次の戦略の模索の中にありました。そんな折に日本道経会会員諸先輩の落ち着いた、尚且つ自信ありげな態度に接するうちに、日本道経会の誓いの言葉通りの経営スタイルを試してみようという気になりました。

早速、弊社の経営理念を「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしに変更しました。当初は自分でも疑心暗鬼でしたので、社員がどう受け止めたかは明らかです。それでもそれ以来数年間、この経営理念のもとに経営を推進した結果、業績が大きく上振れしました。実に不思議でした。三方よしと言った手前、社員にとって「よし」とは何か?顧客取引先にとって「よし」とは何か?世間にとって「よし」とは何か?を考えざるを得なくなってしまったのです。社員にとっては、給与・福利厚生ですし、顧客取引先には、QCDですし、世間には社会貢献という、ごく当たり前のことが、それ以前にできているようで、できていなかったことが、ジワリと判ってまいりました。

その後、会員歴も浅く、忙しさにかまけ、日本道経会のセミナー受講も出来ていませんでしたので、一念発起、モラロジー道徳教育財団発行の『道経一体経営原論』(令和元年版)を毎朝起床後、1項ずつ約半年かけて読破しました。

その中で、特に印象に残った記述は、打1章第2節第2項「不景気克服の方法」の中の『不景気・恐慌は人間の不道徳に対する差引勘定である』という部分です。不景気・恐慌を自社の業績衰退・赤字に置き換えれば、その原因は経営者の不道徳に起因するという事です。目から鱗が剝がれるとはこの事でした。その他にも、第2章第5節「品性資本力と金銭資本力」には『正の相関関係』があるという事、第3章第1節第2項「聖なる場所の必要性」について、大きな教示を受けました。廣池師の至言は、会社のあり方を形無い理念だけではなく、財務やシンボル等の見える形も整えねばならないという本質的な指摘です。仏教に『心は形を求め、形は心をすすめる』という教えがありますが、正しく物心両面の経営が必要とされるわけです。

更に道経一体経営のベースにある思想の真髄は、「人心救済」にあると、愛知支部の鈴木前事務局長(現顧問)からお会いする度にご教示を受け、人心とは何か、救済とは何かを考えました。その答えは、『道経一体経営原論』第7章「人をつくる」に集約されているのではないかと。救済すべき人心とは、先ず自分の品性であり、そして共に働く社員に他ならない。その為に何をしなければならないのか?「物を作る工場ではつまらない。人間をつくる工場でないといけない・・・・・経営者としての使命は、人間をつくることである」(廣池千九郎語録)という教えの実践は、言うは容易いですが、暗中模索です。

その打開策として、モラロジー道徳教育財団発行の書籍「徳づくりの経営」をテキストに、役員での読書会を行いました。引き続き部長職の読書会、更に現在課長職の読書会を取り行っています。何故経営に徳づくり=人間づくりが必要なのかを皆で自問自答する研修会です。決して結論が出る読書会ではありませんが、会社の或いは個人の成功体験や失敗の黒歴史を語り合う中で、参加者のコミュニケーション力が飛躍的に高まる実感がありました。このコミュニケーション力こそ、会社のパワーであり、それこそが参加者の人間的成長を促すものではないかと実感し、これが人心救済への道ではないかと、最近考えております。

渋沢栄一の思想「道徳なき経済は罪悪、経済なき道徳は寝言」という、正に道経一体の経済原理を体現する三方よしの理念。逆に言えば、三方よしの理念と人心救済のへの努力を掲げれば、経営は上手くいくという不思議、これが日本道経会の私にとっての功績です。