邂逅(かいこう)~出会いと言葉に支えられて~
- 日本道経会 京都支部
- 社会保険労務士 太田事務所 所長
今回、日本道経会通信の執筆にあたり、思い浮かべた言葉は「邂逅」でした。邂逅とは、思いがけない出会いや偶然の巡り合わせを意味します。ある文章に「人生は邂逅で成立する」とありました。人と人との出会いはもちろんのこと、人と言葉、人と考え方との出会いもまた、人生に大きな影響を与えます。ある出会いをきっかけに生き方そのものが変わることも少なくありません。良き出会いは良き人生の礎となり、邂逅こそが人生における重大事であると感じています。現在、社会保険労務士として仕事に携わる中で、これまで出会ってきた人々や心に残る言葉の一つひとつが、私自身を支えていることに気づかされます。そして、そのようなご縁に恵まれてきたことに対し、日々感謝の思いを抱いています。
徳を知る母の教え
私は米穀商を営む家庭に生まれ、姉とともに育ちました。しかし小学四年生のとき、父が急逝するという「まさかの坂」を経験しました。将来への不安が募る中、母は懸命に働き、私たちを大学まで進学させてくれました。母が繰り返し語っていたのは、「徳を積みなさい」「人様のお役に立ちなさい」という教えでした。後に知ったことですが、母の父はモラロジーを学んでおり、その影響が母の言葉に表れていました。その教えは、現在私が学んでいる道経一体の思想とも深く通じています。今となっては直接感謝を伝えることはできませんが、母の積んできた徳(陰徳)は、その後の私の人生において多くの良きご縁としてつながっていると感じています。
身近な師・母の弟
父の死後、私に大きな影響を与えたのが、母の弟である叔父・小泉隆司(麗澤高校出身)の存在でした。叔父は実業界(元オリックス球団社長・会長)で活躍し、豊富な経験を通じて独自の人生観や仕事観を築いていました。私が同じリース業界に進んだのも叔父の影響によるものです。叔父から教わった「裏方を大切にせよ」「生涯学び続けよ」「Think/常に考えよ」という言葉は、今も私の行動指針となっています。また、仕事と報酬についての考え方も大きな示唆を受けました。報酬とは単なる金銭ではなく、人が成長する機会そのものであるという考え方です。やりがいのある仕事を与え、成長を促し、人としての成長につなげることこそが真の報酬であるという教えは、企業の繁栄は人づくり経営にありという日本道経会の理念そのものだと感じています。
社会保険労務士との出会い、独立開業
私の人生における大きな転機は、前職で人材開発部に配属になったことでした。そこで社会保険労務士という資格に出会い、働きながら取得することができました。その後、東京での社会人生活から何の人脈も伝手もない京都に帰郷し、退路を断った独立開業を決意しました。不安の中で私を支えてくれたのは、義父から贈られた言葉でした。「親あってこそ 師あってこそ 友あってこそ 自分がある ゆめゆめ自力とは思うまい」と「必要な人になれば仕事は絶えない 希望は尽きない」という言葉は、開業当初の先が見えない不安な時期を乗り越える大きな支えとなりました。
恩寵的試練に感謝
開業から十年ほど経った頃、母の長年にわたる介護と看取りを経験しました。その後も忙しい日々が続く中、健康診断で思いがけない不安に直面し、眠れぬ日々が続く心身ともに大きな試練を迎えました。しかし、良き医師との出会いにより回復することができました。そのとき心に深く響いたのが「明けぬ夜はない」という言葉です。「今は辛い時期があってもやがて必ず良い時期が来る」と、困難の中でも前を向く力を与えてくれました。振り返れば、この恩寵という試練もまた自分を成長させる機会であったと感謝し、人の痛みに寄り添う姿勢を学ぶ貴重な経験であったと感じています。
日本道経会に学ぶ
日本道経会との出会いも、私にとって大きな邂逅でした。京都支部での学びや活動を通じて、志を同じくする先輩方や仲間との出会いは、私にとって「見聞を拡げる」大きなチャンスとなり、より高い視座で考える機会を得ることができました。研修や視察旅行、交流の場は、単なる知識の習得にとどまらず、人間力を高める貴重な場であると感じております。京都支部での活動は、支部視察研修旅行で訪問しました伊那食品工業㈱様において、総務部長が語られた「社員との親睦を図り、社員の見聞を拡げる、そして楽しく」という経営の取り組みに通じるものです。今後も「道経一体」の理念のもと、「三方よし経営」を学ぶ仲間との出会いを大切にしていきたいと考えています。
最後に
日々心に留めている言葉を紹介します。「チャンスは貯金できない」アサヒビール㈱元会長の樋口廣太郎氏(元住友銀行副頭取・京都市出身)の言葉です。機会は掴むものであり、見逃せば二度と戻らない、貯めることは出来ないとバンカー出身らしい言葉は邂逅の本質を示しているように思います。また、「手回しせねば雨が降る」という教えは、今年創業315年を迎える私の顧問先の経営訓です。悪い状況に陥らないよう、日頃から事前の準備の重要性を説いており、現在の予測不可能な不確実な時代に通じる教訓であります。
そして「有志竟成(ゆうしきょうせい)」これはある方のご縁でノーベル賞を受賞された京都大学特別教授・本庶佑先生に受賞後の翌年春にお会いしていただいた色紙の「座右の銘」です。志がしっかりしていればいつかは実現できる、道は開けるという信念は、これからの時代において「志」を高くもつことの大切さを教えていただきました。
今後も道経一体の経営思想を生涯学び続け、微力ながら利他の心をもって社会に貢献できるよう努めてまいりたいと思います。そして一つひとつの邂逅に感謝し、そのご縁を活かしていくことこそが、人生をより豊かにする道であると信じ、この学びを通して気付き、実践を続けていきたいと思います。