一般社団法人日本道経会

事業承継

樋口 真一郎
  • 京都支部会員
  • 樋口鉱泉株式会社

私が代表取締役社長に就任したのは、2015年4月のことでした。会社が創業125周年を迎えた年で、今年でちょうど10年の節目を迎えることが出来ました。

当時、先代の社長でありました父は66歳。かつては「こんな半人前の息子に引き継いで社長を退くには、まだまだ時期尚早なのではないか?」との声も、社員や周りの仲間から多く寄せられていたと聞いております。

しかし、父は世代交代をおこなう1年ほど前に肺炎を患い、緊急入院をすることとなったのです。

命に別状はなかったものの、病院のベッドで「元気なうちに世代交代をしておくことで、困ったことがあっても自分が真一郎をサポートすることができる。いろいろな経験を通じて成長するところを見守ることができる」と決断し、社長を退任し、会長職となって私にバトンを渡す決意を固めたといいます。

父のその決断は、私にとっても会社にとっても大きな転機となりました。就任当初は、右も左も分からない若輩者であった私を、父は時には厳しい言葉で発破をかけながら陰ながら支え続けてくれました。

経営のノウハウや、優しい言葉をかけてきて揚げ足をとろうとしたり、対応が難しい人との接し方、そして何よりも経営者としての三方よしの精神で商売をおこなう心構えを、父から学ぶ日々が続きました。父の背中を見て育った私にとって、その教えは何にも代えがたい宝物です。

特に印象深いのは、父が常々口にしていた「社員に感謝し、社員家族を大切にしなさい」という言葉です。社員一人ひとりの声に耳を傾け、悩みを聞き、取引先やお客様との信頼関係を築くことのできる社員の皆様が成長できる環境づくりの大切さを、父は身をもって示してくれました。その教えは、現在の私の経営理念の根幹となっています。道経一体思想の中にもあります、会社経営とは「人づくり」であることを日々実践していたように思います。

また、父は地域社会とのつながりも非常に重視しておりました。地元の会合や学校の役員など、多忙な日々の中でも地域活動に積極的に参加し、地域の発展に寄与してきました。その姿勢は、私にとって大きな学びであり、現在も地域との連携を大切にする経営を心掛けています。

しかし、2019年12月4日、父は肝硬変を患い他界いたしました。体重も重く、肝臓を悪くしており通院を続けてはおりましたものの、11月半ばまではいつもと変わらず職場に赴き、仕事や地域の会合、学校の役員などを毎日精力的にこなしておりました。そのため、まさかこんなにもあっけなく亡くなってしまうとは、その時まで夢にも思いませんでした。

今思えば、周りに早すぎると言われていた事業承継でしたが、銀行や取引先のような対外的なコミュニティに対しても、従業員との関係性などの影響を考えても、あのタイミングで事業承継を行うことができたのは本当に良かったと感じています。もしかしたら、父自身、なんとなく予兆を感じていたのかもしれません。

父の先見の明と深い愛情により、私は経営者としての道を歩むことができました。父が築き上げてきたものを受け継ぎ、さらに発展させることが私の使命であると強く感じています。私もその想いを引き継ぎ、社員やお取引様、仕入れ先様をはじめ様々なステークホルダーの皆様の支えをしっかりと感謝をしながら、150年の節目を迎えられるしっかりとした基盤の会社づくりが出来るよう日々精進をしてまいります。

最後になりますが、父の生前中、皆様から賜りましたご厚情に深く感謝申し上げます。今後とも変わらぬご支援、ご指導を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。