会長訪問シリーズ!「親子のアトツギ物がたり」
第4回 中津中央青果株式会社 吉冨麻里子社長/洋子取締役 親子に聴く 後半
6.アトツギへの道
- 生田
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洋子さんはいつアトツギになることを決めたのですか。
- 洋子
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父が亡くなり、母が社長に就任しました。母の次は、長男の弟の予定で、後継ぎとしてもふさわしく弟が会社を盛り上げてくれていました。約10年にわたり弟は営業を一生懸命やっていて、トマトの販売では、九州一位で三回連続表彰されています。いつも携帯が鳴りやまないほど。現場で汗をずっと流してくれていました。その弟がある日、突然「自分で事業をやって、外貨を稼ぐ」といって退職しました。
- 麻里子
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でも、どれだけ頑張っても、なぜか赤字だったんです。返さないといけない莫大な借金がありました。
- 洋子
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それでも、どこか心の中にいつか弟が改心して継ぐだろうと、やってくれるだろうと。ですから、私の気持ちもどっちつかずの不安定な立場でいました。まずは会社をどうするのか、経営は何もわかりませんでした。
いろんな人に助けられました。40年、30年のベテラン社員さん、パート社員さん。厳しく優しい顧問の税理士先生。道経一体を私たちに伝授してくれる先生方。
私の人生では、人にお金を借りたことがないのに、大金を返すのに必死でしたが、これもありがたいお金です。その時、団塊の世代の退職金などが重なったのでしょう。金利だけでも大変なものでした。貸して頂けた大金も今考えれば大きな財産です。
7.モラロジーという財産
- 洋子
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小さな頃から紙と色鉛筆を持って、セミナー、講座等に母について行っていました。当時ありました九州センターにも両親が毎月のように社員を講座に送っていました。その車中からの山々の景色とセンタースタッフの笑顔がまだ記憶にあります。
振り返ってみますと、両親が一番多く私に教育としてたっぷり時間をかけてくれたのが、このモラロジーという学問だったんです。
特にこの20年、廣池博士の道徳科学の論文を毎日手にしているかもしれません。目を閉じると、何冊目の何ページかが大体めくれます(笑)。
今回の後継ぎの流れは、返済が全て終わって、何かの宣言があったわけでもないですし、そういう絵図もなかったんです。でも、先祖や両親が大事に繋いでくれたものです。そう導かれていくなら、もちろんやります。周りに最高の人生の先生である仲間がいる、家族もいる、そして私はここ中津が大好きです。
弟は、しっかり自分で立ち上げた会社を経営していて安心しています。最近、母と私を役員にしてくれて、なんと今ではお給料も毎月くれます。弟は何より楽しく仕事をして生き生きしています。弟は自身の事業と併せて祖父の代から運営している公益財団法人中津霊園も運営してくれています。
私のスマホの待ち受け画面は、会社の正面玄関の前で祖父が1歳くらいの私を抱きかかえているものにして、エネルギーとしています。今その写真を見ると、予言なのでしょうか。祖父からのメッセージを感じます。
つまずくことも沢山、でもいつまでも倒れていたらダメだと、リーダーとして生きないといけない人は、倒れてもすぐに歯を食いしばって立ち上がらなければ!
今は、いつかそれでも弟がアトツギに!というような不安定な気持ちはありません。
毎日ミニ事件簿、「課題はあるけれど何でもかかってこい。」これは、モラロジー、道経一体という学問と出会っているから、様々な課題が来ても安心していて「今日も順調に課題が来た」と思えてしまいます。
その先で「わが人生に悔いはない」という言葉を父のように言ってみたい。
8.中津中央青果のありたい姿
- 生田
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これからの中津中央青果のビジョンを聞かせてください。
- 洋子
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地方卸売市場は、公共性が非常に高い事業です。もっと言うと「自主的公共事業」です。
まずは、安全安心そして安定した地元の青果物の確保、供給ができるように。ここ最近の天候との兼ね合いもあります。農家さんは高齢化もあって減っています。そのなかで、原点に戻る。農家さんを大事にする。コミュニケーションをとって情報を交換して、様々なリクエストに傾聴し、美味しい農産物を市場に並べてもらう。
農家さん、仲買さん、その先の消費者様、食卓から幸せになっていただけるように、食卓から世界平和が実現するように想像力を常に働かせていかなければと思っております。
その基本精神は、ここ中津市出身の廣池千九郎博士の教えにあります。父が書き残したように「慈悲関大自己反省。すべてに感謝して心から実行する人生」にしたいです。
数字はもちろん大事です。その前に、社員の明るさ。これが将来のビジョンには絶対に欠かせません。
そのうえで考えると、理想はあれこれ頭の中で描くこともありますが、つまずくたびに、課題にぶち当たるたびに、解決もそうですが、実は理想より課題を超えた後の現実の方がはるかに輝いていると感じます。
目標という意味で言いますと、次のアトツギが成長してくれて、入社してくれる時には、「この仕事がしたかった!夢だった!」こんな気持ちの職場であるように。私は、その日まで先祖が繋いでくれた市場を輝かせながら、感謝の気持ちでしっかりと繋いでいくことです。
9.弟への想い
- 生田
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弟さんへの想いを聞かせてください。
- 洋子
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弟は一人身で心配だったのですが、懐の深い女性と結婚をして、昨年、男女の元気な双子が生まれました。
そしたら弟ニコニコと「きみたち♪ どっちが市場を継いでくれるのか?んー、頼りないなぁ」と(笑)。赤ちゃんたちに話しかけていました。嬉しくなりました。
『人間万事塞翁が馬』です。
弟が立ち上げた事業では青果業で得た経験の延長に、分子栄養学という分野で、「予約の取れない栄養カウンセラー」と言われるようにまで。楽しいらしいです。
「トト姉ちゃん」からの弟への願いは、引き続き人生を楽しんでくれること。そして、微力な私を24時間365日気軽に頼りにできる姉ちゃんだと思ってくれたら最高です。
毎日、何度も電話がかかってきますが、そのうち2、3回はビデオ通話です。ちなみに弟から「姉ちゃん、お願いがあるんだけれど」には、内容を聞く前に「はい、いいよ」と答えてきました。多分弟は気が付いていません。それが私のちょっとした挑戦です。
人生を楽しんでもらって、弟の口からも父と同様に「わが人生に悔いはなし」を聞きたい。
10.互敬塾で得た宝物
- 生田
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互敬塾の支部長を経験して得た宝物は何ですか。
- 洋子
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塾生として、ずばり一生の付き合い!特別な人脈です!支部長になってみて、この確信!
関連する商売での人脈、また他の勉強会等は多くあると思いますが、経営者が経営だけでなく、道徳を合わせたこの学問を学ぶ仲間の集まりって、他にありません。
福岡互敬塾・支部長二年生になりました。博多での全国大会実行委員長を無事に終えたのも、支部長になってしまったのも(笑)、見えない何かよくわからないことが起こっていて、私の成長のために用意されていたとしか思えません。
一方で女性が実行委員長も支部長も経験者がいない、だったら!と。気は優しく力持ちで支えてくれる九州男児塾生の考えたことでしょうね(笑)。
入塾して得たものは、絶対出会わなかった一緒に学ぶ仲間たち。一歩、違う世界へ、ポンっと踏み出してよかったです。
「小人は縁に出合って縁に気づかず、中人は縁に気づいて縁を活かさず、大人は袖すり合った縁をも活かす」との言葉がありますが、塾を通してご縁を頂いている方の姿をみると全員が縁に気が付き活かしている。
商売の相手としてではなく、皆さんが「あり方」「生き方」の先生としてお互いを尊重し、学んでいるということがすごい!
そして私がどうにか支部長としてギリギリ成り立っているのは、周りに恵まれているからです。副支部長や役員、事務局は本当に大変ですが、毎週のように顔を合わせていると、「一生の付き合い」と思え自然体でいることができます。
事業の運営の責任は大変重いと実感します。しかし、モラロジー、道経一体論、互敬塾は、私の張り詰める心を軽やかに、その上、楽しみまでも与えてくれ感謝しています。
- 生田
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中津に二人の大和撫子あり。心に染み入る珠玉の物語をありがとうございました。