一般社団法人日本道経会

「道経一体をつなげ!」

辻 吉樹
  • 東京支部会員
  • 株式会社 辻洋装店 代表取締役

株式会社辻洋装店は1947年に疎開先の東京都中野区で私の祖母春子が創業した婦人服の縫製工場です。元々祖父は東京の神田で穀物問屋を営んでいましたが戦争で商売替えを余儀なくされました。既製服の文化がまだ入り始めていない頃から洋服をオーダーで作っていました。

最初の代表には祖父・米吉、二代目は父・庸介そして2021年1月三代目の代表になりました。私は男3人兄弟の長男で、二人の弟たちと一緒に仕事をしています。今年で創業77年、現在社員は32名です。祖母がはじめた仕事のおかげで今の自分たちの仕事がある事を思うと感謝と同時に、次にどのように繋げていくかという責任も大きく感じています。

私達が属しているアパレル製造業、とりわけアパレル縫製工場は1990年をピークに減り続け全国で80%以上、東京都は95%以上なくなってしまいました。その結果、国内で流通する衣料品の輸入浸透率は98.5%つまり自給率はわずか1.5%(2023年)、衣食住の衣のほとんどを外国に頼らなければならない状況になってしまいました。皆さんは日本製のお洋服を何着お持ちですか?日本国民全員が服を着ているのにも関わらず98.5%を外国に頼らなければならない現状に危機感を感じています。

この様な業界の中でも父は人づくりに重きを置き、道経一体の経営を志してまいりました。傾きつつある業界の中で様々なご縁に支えられ、いい人づくり、いいモノづくりに軸足を置きつつ、算盤が得意な父は会社経営の数字にはとくに厳しく、現在の会社の土台を作ってくれました。

皆さまが道経一体経営をこころざしたきっかけは何ですか?

それぞれ様々なきっかけがあるかと思いますが、私の場合はこの傾いていく業界の中で小さいながらも創意工夫しながら生き残ってきた会社の存在がとても大きかったと思います。また何より経営者である父の生き方が何か裏書きの様なものになっている気がします。

衰退する業界で次々にいなくなっていく同業者、特定顧客への過度な依存、労務環境など、負の要素は多かったものの、常に前向きに対処してきたのを見てきました。なぜ同業者が次々となくなってしまっていくのか。父はいつも経営者自身の考え方に大きな原因があるのではないかと話してくれました。

父の考えを引き継ぐ為に入社当初からモラロジーの研修、道経一体の講座、様々な学びの機会を頂きました。そして様々なV字回復の奇跡、感動の秘話、いい話をずいぶんたくさん聞きました。分かっているつもりになっていましたが肝心な道徳の実行が出来ていなく、経済が傾き始めてきました。

そもそもこの業界で黒字を出し続ける事が出来るのか?役割を終えた業界なのではないか?他の業界を羨むなどマイナスの感情がループして湧き出てきます。業界の衰退は止まらず、道経一体の経営を志しながらついに赤字になってしまいました。対外的にはよい経営者を装い、会社も社員も業界も良くなっていない状況で三方善しを掲げていました。知らず知らずのうちに学んだことと著しく矛盾している状態になっていました。赤字が悪いことくらい分かっていましたがどのように改善して良いか分かりませんでした。

そんな時、当時互敬塾の経営者仲間から公認会計士の先生の勉強会に誘われました。先生からは「道経一体目指しているのに赤字じゃだめだろ!」と最初に言われました。それから特に経済の方でやるべきことを順序だてて教えて頂きました。営業、生産性改善など弟達、社員と共に実行していきました。少しずつ結果が出始めると今度は道徳的な事を指導されました。ようやく研修で学んだことが役立ち始めてきました。経済がよくなると道徳を指導され、道徳を頑張ると経済を指導され、両方が同時に大切であり一体であることを教えて頂きました。そして道経一体の経が抜け落ちていた事を反省し、新たに志を立てる事が出来ました。

この学問を創立された廣池千九郎先生は「経済を捨てて救われた魂は人間社会に用なし、死者と同じ。死者を作ることは罪悪なり」(改定廣池千九郎語録64頁)

また「子孫に金を残すよりも子孫に良い教育をするということが、一番自分と子孫とのために利益になるのである。これは聖人がそういわれただけでなく、事実がそれを証明しておるのであります。いくら金があっても、品性の劣悪な子どもであっては何の役にも立たない。」(人間教育における道徳の価値4頁)という教えを残しています。

道徳と経済は一体でなければならなく、何よりその考え方が子孫に伝わらなければ価値がないとまでおっしゃっています。

これから私たち兄弟が事業を通じて次の世代にどのような裏書きを残し、伝えていく事が出来るか楽しみでなりません。

実践事例