一般社団法人日本道経会

事業の永続を目指して

齋藤 正一
  • 有限会社サイトウプリント 代表取締役
  • 神奈川支部代表幹事

日本道経会神奈川支部の齋藤正一と申します。仕事は横浜市港南区で印刷業を営んでおります。

弊社は現在法人化して62期目に入りました。父より、会社を引き継いであっという間の26年間でしたが、現在55歳の私は事業を継続する難しさを痛感している日々です。この原稿をご依頼いただきました時も、自身の会社の先行きを考え、改めて大きな課題であると不安を感じつつも、しっかりと課題に取り組もうとする、良いきっかけになりました。

印刷技術の起源はわりと古く、15世紀のドイツのヨハネス・グーテンベルクによる活版印刷の発明が、情報伝達の革命をもたらしました。日本においても、江戸時代の木版印刷を経て、明治時代には近代的な印刷技術が導入され、昭和・平成と進むにつれてオフセット印刷やデジタル印刷が普及しました。

弊社も今日まで事業を祖父から父、そして父から私へと事業承継するタイミングで、技術の変換がありました。祖父が始めた頃はもちろん活版印刷でしたが、祖父が亡くなり父へと代替わりが進むにつれ、印刷機は活版からオフセット印刷へと変わっていきました。週末にはよく父に連れられ、印刷機械の展示会に行った記憶があります。オフセット印刷とは、活字を使わず、平版の版で印刷をします。活版印刷からオフセット印刷への移行をしていくと、植字(活字を並べて組む作業)の職人さんがほとんど辞めていきました。印刷という仕事は変わらないのに、技術が変化してもその作業に係わる人間の仕事が変化してしまい、その変化についていけないと仕事がなくなることを知りました。

2000年を前に私がサイトウプリントの営業をして、そこそこの実績も積み上げられてきた頃にWindows95が出て、その後、世の中に驚く程の勢いで普及して、弊社でもMac、Windowsといったパソコンでの作業をするようになっていきました。併せて、今まで帳票やモノクロの小冊子等のモノクロ印刷を主軸にしてきた弊社が、これからはデザインを加えたパンフレットやカタログなど、より単価の高いカラー印刷への受注への期待が膨らむようになりました。パソコンの普及に比例して、市販されているプリンター等の複合機の進化も目覚ましく、私達から突然に仕事を奪っていきました。

ミレニアムと浮かれつつ21世紀を迎えてから既に四半世紀、特にここ5年くらい、私たちをとりまく状況は印刷業界に限らず、今までにない急激な変化を見せています。20世紀後半くらいから「パラダイムシフト」という言葉をよく耳にしていましたが、もう少しゆっくりとした変化だと思っていましたが、業界を問わず、それは逆に加速しているような気がします。10年くらい前には想像もしていなかったことが起きています。

例えば年賀状。プリンターの進化でお客様自身が印刷をされることは、だいぶ前からある程度想像をしていましたが、まさか年賀状を送らなくなるような世の中になるとは思ってもいませんでした。

「大勢には善きものと悪しきものとあり。大勢に逆行または順応するものは滅ぶ。順応しつつ真理を守るもの残る」

道経一体を学ぶようになって知った言葉ですが、この言葉の意味の深さと重要さを日々感じているこの頃です。

業界を問わずですが、今までもビジネスモデルがある日突然に無価値になってしまうことは当たり前のようにあったことだと思います。今の私たちの提供する商品が、今後世の中から消えていくイメージは容易についてしまうのに、なかなか明るい未来をイメージできませんでした。

そんな時、日本道経会をはじめ、互敬塾の仲間に今の弊社の現状などの話をしてみたところ、いろいろなアドバイスをいただくことができました。ある友人はA4の用紙に、「こんなことをしてみたら」という売り先や売り方まで、いくつも書き出して私に話してくれました。どれも実現可能な提案で、なるほどとうなずくばかりでした。お恥ずかしい話ですが、自身の会社をきちんと見ていなかったのは私の方だったと思いました。

先日、現在選考をしている「三方よしアワード」の候補企業様の経営者の方のヒアリングに参加させていただく機会をいただきました。3名の経営者の方のヒアリングに参加させていただきましたが、どの経営者のお話も素晴らしく、優れたビジネスモデルや商品は、その素晴らしい経営の結果であり、正に「真理を守る」経営を徹底しているという感じでした。ヒアリングをさせていただいて気づいたことは、どの企業様も「この先ずっと存在し続けることができるだろう」と感じたということです。何より私が「この先ずっと存在続けてもらいたい」企業様だと思ったことです。きっとその企業様のステークホルダーの方たちもそう思っているに違いありません。

会社の大小を問わず、課題や問題が無い会社はありません。町の印刷屋というお役目は、残念ながらこれからも減って行く事は避けられないと思いますが、友人のアドバイスにもあったように、まだまだ私のやるべきことがたくさんあることに気づくことができました。事業を続けて、永続していくには、事業承継やビジネスモデル等、とても多くの課題がありますが、先ずは、道経一体の学びと実践で、この先もあって欲しいと思ってもらえる企業経営を目指そうと強く思うようになりました。

実践事例