人づくりとモノづくり
- 長崎互敬塾
- 有限会社 津野田ゴム加工所
弊社は、創業47年目の製造業で、ゴム・化成品の材料を加工する仕事をしています。この10年の間に、半導体製造装置メーカーに部品供給が出来るまで、加工技術を高度化することが出来ました。
弊社の経営理念の一丁目一番地は、「人づくり、モノづくりの向上に努めます」です。父の代で経営理念を掲げて、朝礼で唱和していましたが、業績悪化の際に人員整理をしなくてはならず、人員整理するのに「人づくり」を唱和するのが辛く、父は経営理念の唱和が出来なくなりました。
私が入社した際も経営理念の存在は分からず、モラロジー財団企業センター永冶先生のセミナーで、経営の根幹は「経営理念」だと聞き、父に「経営理念」を作って掲げよう!と話すと、先ほどの経営理念がすでにありました。その後、朝礼で経営理念の唱和を始めましたが、私自身は「人づくり」が肚に落ちていませんでした。
製造業なので、モノづくりが大事なのは重々承知しています。加工技術の向上や、そのための最先端の設備を導入してきました。評価制度も技術手当を拡充して、職人集団を組織していこうと考えてきました。そうすれば、社員さんもお客様も喜んで貰えるはずだ、と確信していました。
その方針で、仕事が出来る社員にはどんどん、技術手当を拡充していきました。すると仕事さえ出来れば良い、ある意味自己中心的な人材になってしまいました。自分のペースや環境で仕事をする社員を育ててしまったのです。
そんな中、新型コロナウィルスが蔓延します。感染防止のために毎日の朝礼を止めて、チャットでの業務連絡だけに切り替え、極力対面になるコミュニケーションを取らないようにしました。半導体不足による、半導体製造装置メーカー向け部品の急激な増加、それに伴う急激な人員の増加、コロナ感染防止対策での会社の雰囲気の悪化により、組織が空中分解しかけました。
とどめが、会社の材料を使って製品をつくり販売しようとする社員が発覚、その防止策として、急いで服務規程をつくりましたが、販売しようとした社員のことを話さずにつくったので、社員の私に対する不信感が高まり、その事について諫言してくれた工場長とは、なぜ自分の気持ちが分からないのかと、憤慨して半年間も口を聞きませんでした。
そんな最中、互敬塾のオンライン勉強会で「㈱さんびるの田中社長」のお話を聞きました。
仲の良いメンバーに、率先して質問して!と促されて質問させて頂き、その後「田中社長に学ぶ経営方針書」の研修で島根へ。コロナウィルスも沈静化してきたので、家族旅行も兼ねた、軽い気持ちで島根県の㈱さんびるの研修に参加しました。
経営方針書と田中社長の言葉に感動しつつも、研修を社内に生かすことは出来ていませんでした。
その後も毎月、WEBで勉強会を開いてくださって、改めて組織の悩みを吐露すると、「朝礼をやりなさい」とご指導頂きました。組織が問題だと思っていたので、「分かりました、工場長と相談して来週からやります」とお伝えすると、「すぐにやりなさい!明日からやりなさい!」とご指導頂きました。とはいえ、社員さんと溝があった頃だったので、初めは朝礼が苦しくてしょうがありませんでした。
その後、ビジョンと津野田ゴムの約束(行動指針)をつくり、朝礼に盛り込みました。ただし、津野田ゴムの約束とは名ばかりで、ほとんどが「㈱さんびるのサービス憲章」から真似したものです。
真似する前に田中社長にご相談すると、「良いものはどんどん真似しなさい」と寛容におっしゃってくださいました。
聞き馴染みがない津野田ゴムの約束に社員達の戸惑いが見えたので、デザイン会社にイラスト付きで分かりやすい小冊子を製作して貰いました。それから、3年間毎日続けています。今では、午前・午後と朝礼が別れたので、午後の朝礼を工場長が自らやってくれています。
朝礼が始まったものの組織内の問題は山積しており、その悩みを吐露すると、「社員さんとの1on1ミーティングも実施した方が良い」とご指導いただき、「また来月からやります!」とお伝えすると、「すぐやりなさい!」とご指導頂きました。
手探りで1on1ミーティングを始めましたが、話が続かずに私が一方的に話をするばかりで、手応えがない。これまたご相談すると、「聞き役に徹しなさい」とのこと。それからは、事前に質問内容を資料で伝えて、話を聞くように心がけています。1on1ミーティングを20回も続けると会社のカルチャーとなり、ある社員からは、「月に一回、社長と話するのを楽しみにしている」と仰って頂けるようになりました。そして、私自身が、会社の小さな変化に気付けるようになりました。
経営方針書をつくって2年目に「経営方針発表会を実施しなさい」とご指導頂きました。これもやったことがなくて、手探りでしたが、「社長賞を設けること、動画に残すこと、懇親会を設けること」をご指導頂きました。
初めての社長賞は工場長が受賞、受賞の際のスピーチ内容は、「以前に比べて、とても働き易い職場になった、会社、仲間のためにもっと頑張りたい!」との内容でした。今までは、私の独りよがりの経営でしたが、方針を発表することで、社員との一体感が生まれた気がします。懇親会では、初めて仕事の話で喧々諤々と盛り上がりました。工場長に「賞状を家に飾ってるの?」と聞いたら、「実家の仏壇にお供えして、両親に報告しました」との事。
その後、社員さんが現場で同じダウンベストを着ていたから、「みんなお揃いで、どうしたの?」って聞くと、「工場長が社長賞の一部で、プレゼントしてくれました」との事。こんな素敵な方を半年間も口を聞かなかった事に、自責の念が堪えません。
今期はパート社員まで含めて全員に経営方針を伝えることが出来ました。弊社はパート社員が約7割を占めていて、勤務業態、勤務時間も違います。結果、4回も経営方針発表をすることとなりました。正社員ではないので、興味や理解してくれるか半信半疑でしたが、「経営方針書を読むだけでは理解出来なかった」と皆さん理解と前向きなコメントをしてくれました。現在、材料価格、エネルギー価格の上昇、人手不足など、製造業をとりまく環境は厳しいですが、社員、パート社員の士気は高く、勇気づけられています。
2023年10月の最低賃金改定に伴い、大手企業がフルタイムパートを高い時給で募集して、弊社で短時間パートで働いていた方が一気に転職されました。そこで、社内でフルタイムパートを希望する方を募集したところ、思っていた以上に希望が多く、1/3の方がフルタイムパートで勤務することとなりました。そうなってくると、同一労働同一賃金の課題が出てきたため、労務士に入って頂き、評価制度を見直しました。
そこで、津野田ゴムが考える「人づくり」人財育成概念を再定義することにしました。ちょうどその時、本部での道経一体経営講座に参加していて、林章浩日本道経会副会長が講義された内容が自分の考える人材育成と合致したので、詳しくお話を聞くと、「道経一体経営原論のP550に記載」があるとの事。それを抜粋して、今期の経営方針書に明記しました。
1.どこに行っても通用する人に育てる( 真に自立した人を育てる )
これも、㈱さんびるの真似なのですが、個人目標を立てて自己評価、部門ごとで実行計画を立てて進捗をプロセス評価、個人目標は、経営方針書に◯×で自己評価出来るように表を掲載しました。毎日を漫然と過ごすのではなく、少しでも努力する事に人間的な成長があると思っています。部門ごとの実行計画表は、各部門のリーダーがチームメンバーと一緒に計画を立てました。これも、トップダウンで、あれこれと指示するのではなくて、自分達で考え実行して貰いたいから実施しています。
2.一心同体の人を育てる(経営的な感覚を持ってできる人を育てる)
本当に恥ずかしい話なのですが、経営方針書をつくるまで、社員会議すらやってませんでした。今は、私が経営状況を資料にまとめて、事前に読んで貰い、社員から感想や質問に答える方法で実施しています。製造業特有なのかもしれませんが、弊社では1社に70%近く依存しております。私自身、これはリスクだと感じていましたが、情報を開示すると、社員からも、1社に70%依存はヤバくないですか?と質問されました。そのリスクを分散するために、「新規のお客様開拓を頑張ろうと思う!楽しんでやるために、信長の野望みたいに日本地図を経営方針書に記載して、各県を塗りつぶしてやらない?」と伝えると、皆さん賛同してくれました。お陰様で、昨年度は新たに24社取引先が増え、日本地図上の取引先も6県から13県に増えました。取引先、取引地域が増える度に、朝礼などで皆と手を叩いて喜んでおります。
3.親孝行する人を育てる( 感謝報恩できる人を育てる )
今期から津野田ゴムの約束【行動指針】を基準にした行動指針評価をつくりました。その中には、親祖先、先人先輩に感謝して、誇れるような会社にすることを明記しました。毎月の原孝司先生の社員研修会などでも、20代の子が親孝行しないといけない。と感想を発表してくれるようになりました。
4.仕事を属人化しない人を育てる( 知識・技術を教えれる人を育てる。)
徳を積むという行動指針があるのですが、それを自利利他で説明しております。自分なりの解釈ですが、「自己努力で、高い技術を得て、それを仲間に伝えていくことで、徳が積み重なる」と説明しています。働き方改革の影響もあり、休みを取得し易い環境づくりのために、動画を用いたマニュアルやデジタル化など、社員さん同士で知恵を出してくれています。そのお陰もあり、有給取得率約60%となりました。女性が多い職場なので、子供や両親のことで気兼ねなく休める環境は、新しく入社された方にも喜んで頂いております。先日入社した方は、今まで働いてきた職場で一番、皆さんが優しいと仰ってくださいました。
私が考える究極の人づくりは、経営者を育てる事だと考えております。現在、製造業の経営者の平均年齢は65歳と言われています。弊社の取引先でも、経営者の高齢化による廃業が進んでおります。
そのような会社をM&Aで救済して、社員様、納入業者、お客様に安心して貰える会社に蘇えさせる。
その際に、弊社の社員が経営者として参画するのが目標です。まだまだ、道半ばではありますが、父がつくった経営理念を実現すべく、自分自身が育たないといけないと思っております。