一般社団法人日本道経会

第2創業・創業チャレンジ

井坪 義文
  • 日本道経会会員
  • 井坪建設株式会社 代表取締役

【創業100年を振り返る】

昨年、井坪建設は創業100年を迎えることができました。ささやかながら、これまでのご恩に感謝を表す記念式典を、当社のカフェにて手作りで行いました。

その際に、100年を振り返る為に昔の写真を必死に探し出して社歴に沿って紹介しました。節目の時に、このような記録をまとめておくことは大事なことだと痛感し、これではいけないと大いに反省しました。

 

<100年続いた原因がある>

その記録の整理中、井坪建設らしさって何か?我が社の一番の持ち味は何か?ということを、今更ながらに問い直し、わが社を振り返る良い機会となりました。100年間の評価は、きちんとしておく必要があります。

住宅づくり一筋で続いてきた事実は大きな財産です。先人が誠実に家づくりに取り組んでくれたことは永続の大きな要因です。そして、常に時代の先を考えて「コブづくりの経営」に取り組んだ、チャレンジ精神の強い会社でした。更に、祖父も父も大工職人から始まった当社は、職人を育成する事にもしっかりと力を注いできました。大工の世界は、親方が中心の個人事業の下請け構造が一般的で、現在はその個人事業者が次の世代を育てられずに高齢化で次々と廃業して、この危機的な職人不足を引き起こしています。当社は昭和41年に法人化して、職人を正社員として自社で育てることにいち早く取り組んだことが、今たいへん大きな財産となっています。

このような善因があって、善果として100年の事業継続が実現できたと思います。

 

【世の中の変化にどう対応するか】

父がモラロジーの初受講をしたのが1983年。その後、当社が道経一体経営を学び始めたのが1986年。それから40年近く、毎月五日の道経一体経営の勉強会「五日会」はコロナ禍でも継続してきました。

現在テキストとしている『月刊三方よし経営』は、私にとってまさに経営の羅針盤のような存在です。歴史上最も激しい変化の渦中にある現在、私の携わる「住宅産業」をこれからどのように舵取りしていけばよいかを考える時、この月刊誌は大変有益な情報を提供してくれます。
「大勢にはよきものとあしきものとあり。
大勢に逆行もしくは順応するものは滅ぶ。
順応しつつ真理を守るものは残る」
(廣池千九郎 遺稿より)

日々、この言葉を繰り返し自問自答しつづけています。

 

<住宅産業の置かれている現状>

住宅産業は家を建築する仕事、このこと自体は大きく変わることはないと思います。ただ、この産業を取り巻く環境は、現在進行形で様変わりしています。例えば、世界の脱炭素化に適応させるために省エネ性能基準が大幅に上がった事。大工や職人などの作り手が激減する事。人口減少時代に家余りが加速し、単身世帯が増えること。そして、モノが充足して物質生活が豊かになり、多様なライフスタイルが尊重されるようになったこと。これらはほんの一部ですが、これらの変化を見極めて、わが社の進むべき道をどう描くのか。

道経一体経営の原理を学び、人と会い色々な考え方を聞きながら、意欲的に新しい産業にチャレンジしている先進事例にヒントを得て、そして何よりも新しい時代を担う若い世代がどう生きていくのかにも深く関心を持って、模索を続けています。

 

【何を守り、何を変えるか】

日々目の前で起きている様々な事案を、道経一体経営論の視点で注視すると、その先がある程度予測できることが多いです。世界が自国主義、保護主義色が強まり、自分の利益優先で全ての交渉がなされる姿は、廣池千九郎が示した理想とは真逆の方向に向かっています。

そんな不穏な世界情勢の中、足元では私たちの生き方の「本質」を問う流れが強くなっている気がします。住宅産業でいうと、本当の豊かな住生活とは?家族の在り方って?人生100歳時代を、どのように生きるべきか?仕事と人生をどう考えるか?人生をより善く生きるために最適な住まいは、どうあるべきか?

そんな本質論に正面から向き合う中で、あるべき将来の住宅産業の姿が見えてくるように思います。守るべき人間の本質的な価値観と、変えていくべき手法が、少しずつ見えてきている気がします。

 

【新しい産業の創造】

モノづくりからコトづくりへ。いろんな業界で使われるキーワードの一つで、我が社でもこの10年くらい取り組んできました。家づくりはモノづくりでしょう。外からみればその通りです。ですが、良く聞く「3人の石工」の話に例えてみますと
1人目の大工は、仕事だから家を建てている。
2人目の大工は、自分の腕を磨くために家を建てている。
3人目の大工は、住む人の幸せな暮らしをつくるために家を建てている。

我が社では、この3人目の視点で新しい住宅づくりに取り組んでいます。100年間の基礎の上に、住む人が夢見るこんな暮らしがしたいに対して「ライフスタイル提案」「暮らしをデザインする」「ずっと寄り添う」そんなサービスを提供するのが、これからの総合住生活産業ではないかと考えます。その為に、自社でお客様とのコミュニケーションの場としてのカフェを運営したり、暮らしに彩りを添える様々なサービスを提供したり、一見住宅産業とは関係ないような取り組みの中から、徐々にではありますが新しい仕事が生まれつつあります。次の世代に、喜んで受け継いでもらえるような会社を目指して、日々チャレンジを続けます。

実践事例