一般社団法人日本道経会

あったらいいな

岩橋 栄太郎
  • 大阪支部会員
  • 株式会社 日之出屋岩橋

日本道経会大阪支部会員で、㈱日之出屋岩橋代表の岩橋栄太郎と申します。

事業としましては、スーパーマーケットを営んでおり、現在3店舗に加え、「ワシがやる!」と78歳の父がカフェを運営しています。私はまだまだ未熟な3代目ではありますが、有難いことに先代・先々代の恩恵も含め、たくさんの方々のおかげで今年59周年を迎えます。

さて、60年または100年と永続できる企業を目指すためには何をすべきなのか?を考えるうえで、まずはスーパーマーケットの歴史をたどりたいと思います。1930年にアメリカで生まれ、日本ではその25年後あたりから続々と開業がはじまり、つまりは100年ほどの歴史になります。

当時は、八百屋さんや魚屋さんなど様々なところへ買物にいかなければならなかったのが、ワンストップで買物できるシステムの導入によりお客様の「あったらいいな」という潜在的な問題を解決したことでしょう。そこからも、凄まじいスピードで変化していきます。

例えば、レジ待ちの問題に対しては、テクノロジーの進歩で大きく改善ができ、今もなお進化中です。もっといえば、買物に行かずとも、家に食材が届く時代です。もっと便利に!もっと簡単に!そういった問題へ真摯に向き合ってきた結果、本当に豊かな世の中へ成長してきました。では、これからの「あったらいいな」とは何か?を考えていきたいと思います。

ひと昔前だと、「自分専用の電話があったらいいな…」そんなことをよく考えたものです。それが、主たる電話機能以上に他の機能で盛りだくさんのスマホを誰もが所持する時代になりました。社会の問題に向き合い、顧客のニーズに応え続け、たどり着いたのが今の世の中です。語弊があるかもしれませんが、何もない豊かではなかった時代の先人先輩方が夢見た世界ということになるのではないでしょうか。では、それを当たり前に感じる世界におかれた我々が向かうべき次のステージとは…?たくさんのものを所有することが豊かさの象徴でしたが、何も持たないことに豊かさを感じる方までいらっしゃる多様性のこの世の中で目指すべき次のステージと問われても…痛烈に難しさを感じています。

100年前の「あったらいいな」は鮮明にイメージできたように思います。なぜなら、結果論ではありますが、解決できるような問題が多かったからかと。ところが、ここ数年の変化のスピードが凄まじ過ぎて、激変する社会のシステムにのまれ、ただただ順応するだけで精一杯の私がいます。しかし、10年後の「あったらいいな」をなかなかイメージできずにいるとはいえ、何もしないわけにはいきません。そこで、物質的豊かさが飽和しつつある世の中では、「物心両面」という観点を基に考えていく必要があるように思います。

弊社の理念に「わが社に集う人々の物心両面にわたる豊かさ作り」があります。わかりやすいのが日曜日の定休日です。小売業なので営業すべきだという声もありますが、先々代からの「従業員にも家族との時間を…」という想いを引き継ぎ、今も継続しています。また、スーパーマーケットは食材を提供するだけの空間にあらずと、お客様やお取引様との関係性を深め、地域密着型ではなく顧客密着型として運営しています。ただ、そこにどこか物足りなさを感じています。お節介なのかもしれませんが、満足のいく食材を提供できても、満足のいく食卓までは提供できていないのでは…と自問自答することが多くなってきました。というのも、私の地域では、単身世帯が37%と非常に大きな割合を占め、徐々に増加傾向にもあり、次のような話が印象深く残っているからです。

ある一人暮らしのご老人が「私は料理が苦手で食事が不味い」とよく話していました。あまりにするものだから、聞いた人たちが食べに行こうという流れになり、ご老人が皆へ食事を振る舞うことに。すると、全員が「美味しいよ」と声を揃え、本人も一緒に食卓を囲んだところ美味しく感じたそうです。その背景とは、今まで美味しく感じなかったのは、ずっとひとりで食べていたからというわけです。考えさせられます。

そういったことから顧客密着型マルシェを運営するうえで飲食店と連携することにより、さまざまなシナジー効果が生まれるのでは…?そんな感覚が芽生え、行動しつつあります。父が運営するカフェがまさにそれです。食事をするだけではない憩いの空間として地域での存在価値を見出し、物心両面にわたる豊かさ作りを実践している気がいたします。さらに申し上げますと、カフェの場所は先々代が創業した場所でもあり、「この店が地域になくてはならないものであったらいいな」という祈りが、時代とともに形を変えて成し遂げられているようにも感じられ、単純に嬉しく思いますし、先々代も喜んでくれていることでしょう。

カフェの運営からたくさんのヒントをいただいたので、「顧客密着型マルシェ×飲食店」には「コミュニティ空間の提供」「フードロスの軽減」「高齢者の雇用」をはじめ、さまざまなシナジー効果が生まれることを期待し、探求していくことこそ、今の私が思う10年後の「あったらいいな」のひとつではないかと考えています。

最後に「あったらいいな」という未来を考えるうえで気づかされるのは、今の私は誰かの「あったらいいな」のうえに成り立っているということです。感謝の気持ちを忘れずに取り組んでいくことを誓い、結びとさせていただきます。

実践事例